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論文「養液内病原菌のオゾンによる殺菌~キュウリつる割病菌分生胞子の場合」を超平易に解説

オゾンに関する学術論文を超平易に解説します。
今回は千葉大学園芸学部の松尾昌樹さんが、1993年発刊の農業機械学会誌に投稿した「養液内病原菌のオゾンによる殺菌~キュウリつる割病菌分生胞子の場合(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsam1937/55/3/55_3_105/_pdf/-char/ja)」を紹介します。

記事の最後にこの文献へリンクしていますので、是非ご覧下さい。

超ざっくりいうと

論文「養液内病原菌のオゾンによる殺菌~キュウリつる割病菌分生胞子の場合」を超平易に解説

まずはこの論文を、超ざっくり解説します。
キュウリを養分の入った水「養液」で育てる方法を水耕栽培といいます。水耕栽培は土を使わなくてもいいので、農作業の手間が減り、衛生的です。
しかしキュウリの水耕栽培では、養液がフザリウム属菌に侵食されるリスクがあります。この菌は、産地の崩壊を招くほど恐ろしい菌として知られています。
フザリウム属菌のことを、「キュウリつる割病菌」と呼ぶこともあります。

そこで著者は、水耕キュウリの根をオゾン水で殺菌してみることにしました。
実験の結果、フザリウム属菌を殺菌しながら、キュウリの生育にも影響を与えない方法を確立することができました。

もう少し具体的に紹介すると

もう少し具体的に紹介すると

それでは、もう少し深く論文の中身に踏み込んでいきましょう。

結論:こうすれば殺菌しながら生育を邪魔しない

結論:こうすれば殺菌しながら生育を邪魔しない

先に結論を紹介すると、オゾンを次のように使うと、キュウリの生育を阻害せず、フザリウム属菌を殺菌できることがわかりました。

  • タンクに溜めた養液を、オゾン濃度0.4mg/Lのオゾン水で処理し、その後オゾン濃度が低下したら養液をキュウリの根に流す

オゾン水のオゾン濃度を0.4mg/Lにしたのは、0.25~0.4mg/Lでは殺菌効果があり、0.1mg/Lでは殺菌効果がないことがわかったからです。
そして、養液をタンクに溜めてからオゾン水で処理するのは、オゾン濃度が0.2~0.3mg/Lだとキュウリが生育障害を起こし、0.1mg/Lだと生育障害を起こさないからです。
オゾンは自然に減っていくので、養液をタンクに溜めてオゾン殺菌すれば、養液内のオゾン濃度が0.1mg/L以下になってからキュウリに与えることができます。

なぜキュウリ水耕栽培にオゾン殺菌が必要なのか

なぜキュウリ水耕栽培にオゾン殺菌が必要なのか

著者がキュウリの水耕栽培のオゾン殺菌の研究に着手したのは、水耕栽培はメリットが大きい代わりに、菌に弱い性質があるからです。

戸外の地面でキュウリを育てると、害虫が出たり雑草が生えたりするので農薬が必要になります。水耕栽培なら農薬は要りません。水耕栽培は、農薬による環境汚染も植物内の農薬残留も回避できます。つまり、安心安全なキュウリをつくることができるわけです。

しかし水耕栽培には、養液に病原菌が混入すると土壌よりも早く蔓延する、という欠点があります。フザリウム属菌などの病原菌は「胞子」「菌糸」「遊走子」という形で溶液中に広がり、キュウリの根に侵入して根腐病を引き起こします。

オゾン水で養液を殺菌するのは、水耕栽培の短所をなくして長所だけにする取り組みといえます。

1993年ごろのオゾンの位置づけ

この論文は1993年に書かれました。このころのオゾンの認識は次のようなものでした。

  • オゾンは塩素の数倍の殺菌、浄化、脱臭、脱色作用がある
  • オゾンは水処理、食品殺菌、医療現場での殺菌に使われている
  • オゾンの殺菌に関する研究は、細菌、原虫、真菌、ウイルスについては行われてきた

※水耕栽培用の養液に関するオゾン殺菌の研究は少ない

特に「※」の事情があったので、著者は今回の実験を行ったわけです。

使用した菌

使用した菌

殺菌実験用に使った菌は、フザリウム属菌の小型分生胞子(以下、菌と呼びます)です。

オゾン水での殺菌方法

オゾン水での殺菌方法

実験は、菌を水に入れた「感染水」を、オゾン水でどれだけ殺菌できるかを測定しました。
3種類の実験をしました。

  • 実験1:菌の接種数76の感染水を、濃度0.40、0.25、0.15mg/Lの3種類のオゾン水に5分間さらす
  • 実験2:菌の接種数303の感染水を、濃度0.40、0.25mg/Lの2種類のオゾン水に5分間さらす
  • 実験3:感染水を、濃度0.25、0.15、0.10mg/Lの3種類のオゾン水に3分間、5分間、10分間さらす

オゾン水にさらしたあと、感染水のなかの菌の数を電子顕微鏡で数えて殺菌状況を確認しました。

実験の結果

実験の結果

実験1の結果は次のとおりでした。

  • 濃度0.40mg/Lのオゾン水:菌の生存率0%
  • 濃度0.25mg/Lのオゾン水:菌の生存率0%
  • 濃度0.15mg/Lのオゾン水:菌の生存率8%

0.15mg/Lのみ、菌が残ってしまいました。
0.25mg/L以上で菌を全滅させられることがわかりました。

実験2の結果は次のとおりでした。

  • 濃度0.40mg/Lのオゾン水:菌の生存率0%
  • 濃度0.25mg/Lのオゾン水:菌の生存率1.3%
  • item

菌の接種数を多くすると、0.25mg/Lのオゾン水でも菌が生存してしまいました。
それを0.4mg/Lにまで高めると完全に殺菌できました。
濃度は、0.4mg/Lは必要であることがわかりました。

実験3の結果は次のとおりでした。
<濃度0.25mg/Lのオゾン水>
3分間さらしたときの菌の生存率:0.2%
5分間さらしたときの菌の生存率:0.2%
10分間さらしたときの菌の生存率:0.1%

<濃度0.15mg/Lのオゾン水>
3分間さらしたときの菌の生存率:2.8%
5分間さらしたときの菌の生存率:0.6%
10分間さらしたときの菌の生存率:9.4%

<濃度0.10mg/Lのオゾン水>
3分間さらしたときの菌の生存率:28.4%
5分間さらしたときの菌の生存率:19.3%
10分間さらしたときの菌の生存率:24.0%

実験3からも、オゾンの濃度は0.25mg/Lは必要であることがわかります。
0.15 mg/Lや0.10mg/Lでは、10分間さらしたときのほうが、菌が多く生存してしまっています。これは殺菌効果が出ていないためです。

キュウリの生育への影響

キュウリの生育への影響

オゾン水がキュウリの生育にどのような影響を及ぼすかも調べました。
その結果、濃度0.30と0.20mg/Lのオゾン水では、キュウリの葉が枯れてしまいました。
0.10mg/Lではそのような障害は出ませんでした。

まとめ~総合的な対策が必要

まとめ~総合的な対策が必要

この論文で、キュウリの水耕栽培の、オゾンを使った菌対策が示されました。そして著者は、オゾン殺菌によってキュウリの生育にダメージを与えない方法も提案しています。
ただ著者は論文の最後に、オゾン殺菌で菌の生存率を0%にしても、苗や資材や人を介して菌の侵入を許す危険がある、と注意喚起しています。
安心安全な野菜をつくるには、総合的な対策が必要である、ということでしょう。

この論文は以下のURLで全文を読むことができます。

論文名養液内病原菌のオゾンによる殺菌
著者千葉大学園芸学部 松尾 昌樹
リンクhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jsam1937/55/3/55_3_105/_pdf/-char/ja

これに関連する記事として、オゾン処理設備が導入された富士通の工場で作られた低カリウムレタスについての記事があります。当時の松尾さんが行ったような研究は令和を迎えた今もしっかりと生かされていることを考えると感慨深いものがありますね。

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