オゾンに関する学術論文「オゾンによる下水中の内分泌撹乱化学物質の分解(https://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/51_2/031-034.pdf)」を超平易に解説します。
今回紹介するのは、2001年9月に発表された「オゾンによる下水中の内分泌撹乱化学物質の分解」です。
著者は、株式会社神戸製鋼所の吉田忠広氏、斉藤彰氏、谷岡隆氏(以上、都市環境・エンジニアリングカンパニー・環境エンジニアリングセンター・開発部所属)、村上裕氏、増田薫氏(以上、技術開発本部・化学環境研究所所属)の5名です。
記事の最後にこの文献へリンクしていますので、是非ご覧下さい。
超ざっくりいうと
論文の筆者たちの会社、神戸製鋼所は下水の汚れを除去する大型オゾン処理設備を製造、販売しています。この論文では、オゾンを使った下水処理がどれだけ優秀であるかを立証しています。
下水処理では、脱色、消毒、脱臭、環境ホルモンの低減などをしなければならず、その方法としてはオゾン処理と紫外線処理があります。
今回の実験の結果、オゾンのほうが優れていることが分かりました。
もう少し具体的に紹介すると
それではもう少し具体的に論文の内容を紹介していきます。
そもそも環境ホルモンとは
先ほど、下水処理には脱色、消毒、脱臭、環境ホルモンの低減が必要である、と紹介しました。脱水、消毒、脱臭の説明は不要だと思いますが、では、環境ホルモンとはなんのことでしょうか。
環境ホルモンは正式には内分泌攪乱化学物質といい、超平易に紹介すると「人の健康に害を及ぼすもの」となります。
内分泌(ないぶんぴつ)と攪乱(かくらん)化学物質にわけて解説します。
内分泌とは、「体の働きを調整するホルモンを出す」という意味です。ホルモンとは、男性ホルモンや女性ホルモン、インスリンなどのことで、人の活動や成長や生殖などに関与しています。
人々の暮らしを取り巻く環境のなかに、このホルモンと似たような働きをする化学物質があります。人がそれを体内に取り込むと、体内の内分泌が攪乱されてしまいます。
それでこの化学物質のことを、内分泌攪乱化学物質と名づけ、通称、環境ホルモンと呼ぶようになったのです。
下水は処理された後に、噴水やトイレの水として使われるので、環境ホルモンが含まれていては問題です。そこでオゾンなどで環境ホルモンを取り除く必要があるのです。
実験方法
実験では、下水に含まれている「ノニルフェノール」「ビスフェノール A」「17β- エストラジオール」という3種類の環境ホルモンを、どの程度減らすことができるのか調べました。
著者たちは、神戸市の実際の下水処理場に行き、最終沈殿池に「オゾン装置」または「紫外線装置」を取りつけて、両方の性能を比べてみました。
オゾン処理の方法は、オゾンの注入量を少しずつ増やしていき、最終的に1L当たり10mg(10mg/L)を注入しました。10mgとは1gの1,000分の1の量です。
紫外線処理は、紫外線を30秒照射しました。
その結果は、次のとおりです。
オゾンの効果は一目瞭然
オゾンを使った下水処理は「驚くほどくっきり」効果が確認できました。論文で使われているグラフをみれば、それは一目瞭然です。
まず、「ノニルフェノール」ですが、以下のように減りました。
オゾンを投入し始めてすぐにノニルフェノールが減り始めています。オゾンの量が5mg/Lになったころには100分の1に減っています。
オゾンを注入する前は、ノニルフェノールは10μg/Lほどありましたが、それが0.1μg/Lまで減っています。
「ビスフェノール A」も「17β- エストラジオール」も、以下のグラフのように、オゾンの注入量を増やせば「しっかり」減りました。
紫外線は10倍照射でもオゾンに及ばず
実験では紫外線照射による下水処理も行いました。通常の下水処理で使われている紫外線量の10倍を照射しましたが、オゾンほどの効果が出ませんでした。
著者たちは「(紫外線照射は)オゾンにくらべ分解率が低く、紫外線処理のみでは分解は困難であった」と結論づけています。
まとめ~下水処理に適していると証明された
著者たちは自信を持って、論文を「下水放流水中の内分泌撹乱化学物質の分解には、オゾン処理が適していることが実証できた」と締めくくっています。
それは環境ホルモンの減少だけでなく、脱色、脱臭、消毒効果も高かったからです。
「オゾンの力」がまた証明された形です。
資料名 | オゾンによる下水中の内分泌撹乱化学物質の分解 |
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著者 | 株式会社神戸製鋼所の吉田忠広氏、斉藤彰氏、谷岡隆氏(以上、都市環境・エンジニアリングカンパニー・環境エンジニアリングセンター・開発部所属)、村上裕氏、増田薫氏(以上、技術開発本部・化学環境研究所所属) |
リンク | https://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/51_2/031-034.pdf |