オゾンに関する学術論文「オゾンを含有した氷の生成に関する研究(http://www.fitc.pref.fukuoka.jp/kenkyu/report/h17/17-38.pdf)」を超平易に解説します。
今回は「オゾンを含有した氷の生成に関する研究」を紹介します。
執筆者は以下の3名です。
- 福岡県工業技術センター・機械電子研究所の吉村賢二さん
- 九州大学・先導物質科学研究所の小山繁さん
- 福岡県商工部・新産業・技術振興課の山本博美さん
この論文は2005年の日本冷凍空調学会論文集22巻に掲載されました。
記事の最後にこの文献へリンクしていますので、是非ご覧下さい。
超ざっくりいうと
まずはこの論文を、超ざっくり解説します。
オゾン氷についての論文です。
オゾン氷とは、殺菌・脱臭効果があるオゾンを溶かした水を凍らせた氷です。オゾン氷は、鮮魚や野菜などを長期保存したり遠方輸送したりするときに使って、鮮度維持をはかります。
オゾン氷は、オゾン濃度が高いほうが品質が高いとされています。そこで吉村さんたちは「濃いオゾン氷」をつくる方法を研究しました。
もう少し具体的に紹介すると
それでは論文の内容をもう少し具体的に紹介します。
濃いオゾンをつくる4条件
結論から紹介します。
実験の結果、濃いオゾン氷を製造する4条件がわかりました。
- 【条件1】オゾン水の温度が低いほど、水中のオゾン濃度が低下する速度が遅い(濃さを維持できる)
- 【条件2】冷却温度が低いほど、氷直径が小さいほど、オゾン水圧力が高いほど、氷中のオゾン濃度が高くなる
- 【条件3】オゾン水の初期温度が高いほど、氷中オゾン濃度が低くなる(初期温度が低いほうがよい)
- 【条件4】氷中オゾン濃度は凝固時間との間に相関関係が成立する(凝固時間が短いほうがオゾン濃度が高まる)
なぜオゾン氷が必要なのか
吉村さんたちが高品質オゾン氷の製造の研究を始めたのは、病原性大腸菌O157や腸炎ビブリオなどによる食中毒が社会問題になっていたからです。オゾン氷が、消費者の安全志向と衛生志向に応えられると考えたわけです。
「食の流通」は拡大の一途です。地方の食材は、東京や大阪などの大消費地だけでなく、別の地方にも素早く届くようになりました。
これまで長期保存や遠方輸送では、オゾンガスやオゾン水が使われてきました。オゾンは酸化力が強いので、食材の殺菌や脱臭が可能です。論文では「オゾンは生鮮食品の安全保存に有効である」と断言しています。
しかしオゾンは保存や安定貯蔵が難しい物質です。そこでオゾンガスを氷に封じ込めたオゾン氷が注目されるようになりました。オゾン氷を使えば、オゾンによる殺菌と氷による冷却が同時に行えます。
なぜオゾン氷の製造の研究が必要だったのか
吉村さんたちは、オゾン濃度が高いオゾン氷の製造方法がまだ確立されていないことから、「オゾン氷製造装置の設計指針」を策定しようと考えました。
注目したのは次の点です。
- 水中のオゾンが時間の経過とともにどれくらいのスピードで減っていくのか
- オゾン水を凍らせるときの冷却温度の影響
- 氷直径の影響
- オゾン水の初期温度の影響
- オゾン水の圧力の影響
この5項目について「最適な条件」を探りました。
最適条件を探せ
吉村さんたちは、以下の実験装置をつくり、高濃度のオゾン氷を製造するための最適条件を探りました。
出典:http://www.fitc.pref.fukuoka.jp/kenkyu/report/h17/17-38.pdf
1は冷凍装置、2はエタノール、3は伝熱管、4はオゾン水、5は温度計、6は温度データを記録する機器、7は酸素供給装置です。
オゾンは酸素からつくるので、酸素供給装置で伝熱管にオゾンを供給して、オゾン水のオゾン濃度を高めていきます。
ここ実験で先ほど紹介した「濃いオゾンをつくる4条件」を導き出したわけです。
まとめ~良質なオゾン氷を大量につくる実験
この論文で、良質なオゾン氷を大量につくる道筋ができました。この論文が書かれた2005年から15年以上が経過した現在、大量のオゾン氷が鮮魚物流に使われています。オゾンの殺菌能力のお陰で、美味しい魚が食卓に並ぶわけです。
この論文の全文は以下のURLで読むことができます。
資料名 | オゾンを含有した氷の生成に関する研究 |
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著者 | 福岡県工業技術センター 機械電子研究所 吉村賢二 九州大学 先導物質科学研究所 小山繁 福岡県商工部 新産業 技術振興課 山本博美 |
リンク | http://www.fitc.pref.fukuoka.jp/kenkyu/report/h17/17-38.pdf |