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論文「オキシダント海水およびポビドンヨード剤がヒラメParalichthys olivaceus卵のふ化率に及ぼす影響」を超平易に解説

オゾンに関する学術論文「オキシダント海水およびポビドンヨード剤がヒラメParalichthys olivaceus卵のふ化率に及ぼす影響(https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/74/4/74_4_653/_pdf/-char/ja)」を超平易に解説します。

今回は、独立行政法人水産総合研究センターの3名が2007年に執筆した論文「オキシダント海水およびポビドンヨード剤がヒラメParalichthys olivaceus卵のふ化率に及ぼす影響」を紹介します。
3名は以下のとおりです。

  • 同センター瀬戸内海区水産研究所栽培資源部栽培技術研究室の太田健吾さん
  • 同センター宮古栽培漁業センターの有瀧真人さん
  • 同センター養殖研究所病害防除部種苗期疾病研究グループの渡辺研一さん

記事の最後にこの文献へリンクしていますので、是非ご覧下さい。

超ざっくりいうと

論文「オキシダント海水およびポビドンヨード剤がヒラメParalichthys olivaceus卵のふ化率に及ぼす影響」を超平易に解説

まずはこの論文を、超ざっくり解説します。
高級魚のヒラメは養殖が盛んで、2002年段階ですでに37都道府県で毎年2,000万尾が放流されていました。
ヒラメを養殖で量産する技術は確立されましたが、ウイルスが発生すると大量に死んでしまうという課題がありました。そこで著者たちは、オゾンを使って消毒することで、ウイルスによる被害を防げないかと考えました。
ただ今回の研究は、「オゾンでヒラメをウイルスから守る方法」を探る内容ではありません。
今回わかったのは、ヒラメの孵化に影響を与えないオゾン消毒の方法です。つまりオゾン消毒を安全に実施する方法の道が開けたわけです。

Paralichthys olivaceusはパラリクティス・オリベイシャスと読み、ヒラメのことです。
孵化とは、卵がかえることです。

もう少し具体的に紹介すると

もう少し具体的に紹介すると

それでは論文の内容をもう少し具体的に紹介します。

ヒラメに襲い掛かる病気とは

ヒラメに襲い掛かる病気とは

出典:独立行政法人 水産総合研究センター(VNNによって生じた組織中の空胞)

養殖ヒラメを大量死させるのは、ウイルス性神経壊死症(以下、VNNと呼びます)という病気です。 この病気は養殖場の重大問題でしたが、感染経路は「卵の表面がウイルスに汚染される→それが養殖池に広がる→次々感染する」であることがわかっていました。 しかもシマアジやマツカワの養殖ではVNN対策として、親魚の選別とオゾンによる卵消毒を行ったところ、効果があることもわかっています。

なぜオゾンが海の魚のウイルス対策になるのか

なぜオゾンが海の魚のウイルス対策になるのか

ただ、ヒラメのVNNとオゾン消毒の関係がわかっていませんでした。
海水中には臭素イオンという物質があり、これがオゾンと接触すると残留オキシダントという物質をつくります。残留オキシダントは強い酸化力を持ち、ウイルスの活動を低下させます(不活化させます)。
そこで今回の実験では、オゾン消毒の方法として、オキシダント海水にヒラメの卵を浸けて、孵化率や死亡率にどのような影響を与えるのか調べることにしました。

シマアジのVNN原因ウイルスは、オキシダントの濃度を0.1mg/Lにした海水に2.5分間さらすと不活化します。濃度を0.5mg/Lに上げると0.5分間で不活化します。
さらにシマアジの受精卵にオキシダント濃度0.5mg/Lの海水に1分間さらすと消毒効果が得られます。
マツカワでも同様の結果が得られています。
著者たちは、ヒラメでも同じ効果が発揮されることを期待しているわけです。

今回の研究の概要

今回の研究の概要

今回の研究の目標は、オキシダント海水によるヒラメの卵の消毒が、孵化率と脂肪率にどのような影響を与えるのかを調べることです。
オキシダント海水をつくるときに使うオゾンは、大量に生物に浴びせると毒になってしまいます。ただオゾンは少量なら害を与えませんし、一定時間が経過すると安全な酸素に変わります。
そこでオゾンの殺菌性だけを活かし、オゾンの毒性の影響を回避する「ぎりぎりの方法」を探ろうというのです。

そしてオキシダント海水の効果だけを調べても「よりよい」かどうかわからないので、比較のためにヨウ素を海水に溶かしたヨウ素海水でもヒラメの卵消毒を試すことにしました。
ヨウ素はヨードとも呼ばれ、医療でも消毒液として使われています。

用意したオキシダント海水の種類

用意したオキシダント海水の種類

オキシダント海水の消毒試験は、次の30通り(=5種類の濃度×6種類の時間)で試しました。

  • 濃度0.10mg/Lに1分、2分、3分、5分、10分、15分浸ける
  • 濃度0.25mg/Lに1分、2分、3分、5分、10分、15分浸ける
  • 濃度0.50mg/Lに1分、2分、3分、5分、10分、15分浸ける
  • 濃度0.75mg/Lに1分、2分、3分、5分、10分、15分浸ける
  • 濃度1.00mg/Lに1分、2分、3分、5分、10分、15分浸ける

ヨウ素海水の消毒試験は、次の18通り(=3種類の濃度×6種類の時間)で試しました。

  • 濃度25mg/Lに1分、2分、3分、5分、10分、15分浸ける
  • 濃度50mg/Lに1分、2分、3分、5分、10分、15分浸ける
  • 濃度75mg/Lに1分、2分、3分、5分、10分、15分浸ける

それぞれ100mLのオキシダント海水またはヨウ素海水に200粒のヒラメの卵を入れました。

孵化率への影響の測定方法

孵化率への影響の測定方法

オキシダント海水とヨウ素海水による孵化率への影響の測定は、次の3つの数字を使いました。

  • 孵化率(%)={孵化した卵の数/(孵化した卵の数+未孵化の卵の数+死んだ卵の数)}×100
  • 未孵化率(%)={未孵化の卵の数/(孵化した卵の数+未孵化の卵の数+死んだ卵の数)}×100
  • 死亡率(%)={死んだ卵の数/(孵化した卵の数+未孵化の卵の数+死んだ卵の数)}×100

結果

結果

以上の実験から次の結果が得られました。

<オキシダント海水について>

  • 孵化率は、オキシダント海水の濃度が高く、浸ける時間が長くなると低下した
  • 死亡率は、オキシダント海水の濃度が変わっても、浸ける時間が変わっても変化しなかった
  • 未孵化率は、オキシダント海水の濃度が高く、浸ける時間が長いほど高くなった。

<ヨウ素海水について>

  • 孵化率は、ヨウ素海水の濃度が変わっても、浸ける時間が変わっても変化しなかった
  • 死亡率も、ヨウ素海水の濃度が変わっても、浸ける時間が変わっても変化しなかった
  • 未孵化率は、目立った傾向が出なかった

この実験の結果、オゾン(オキシダント海水)の殺菌性だけを活かし、オゾンの毒性の影響を回避する「ぎりぎりの方法」がわかりました。次のとおりです。

●オキシダント海水は、濃度1.00mg/Lで2分間、濃度0.75mg/Lで3分間、濃度0.50mg/Lで5分間であれば、孵化に影響を及ぼさないことがわかった

また、ヨウ素海水については次のことがわかりました。
●ヨウ素海水は、濃度75mg/Lで15分間なら孵化に影響を及ぼさないといえるが、まれに孵化率が低下する場合もあったため、安全とはいえない

まとめ~魚の種類ごとに試す必要がある

まとめ~魚の種類ごとに試す必要がある

殺菌や消毒は、害となるウイルスや細菌を殺しますが、同時にクリーンにする対象にも害を与えることがあります。オゾンは強い殺菌作用があるだけに、食糧に使うときは対象物に悪影響が及ばないか調べる必要があります。魚であれば魚の種類ごとに試さなければなりません。シマアジやマツカワでよい結果が出たからヒラメでも同じ結果がでるはずだ、と考えてはいけない、ということです。それが今回の実験のテーマでした。
今回の実験では、オゾン(オキシダント海水)がヒラメの孵化に影響を及ぼさないギリギリのラインがわかりました。養殖ヒラメの大量死を防止する道が開けたわけです。
この論文の全文は以下のURLで読むことができます。

資料名オキシダント海水およびポビドンヨード剤がヒラメParalichthys olivaceus卵のふ化率に及ぼす影響
著者独立行政法人水産総合研究センター
瀬戸内海区水産研究所栽培資源部栽培技術研究室 太田健吾
宮古栽培漁業センター 有瀧真人
養殖研究所病害防除部種苗期疾病研究グループ 渡辺研一
リンクhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan/74/4/74_4_653/_pdf/-char/ja

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