オゾンプラス

日本最大級のオゾン専門ポータルサイト|オゾンプラス

論文「温度フェーズと中間オゾン処理を組合わせたプロセスによる余剰汚泥嫌気性消化の促進効果」を超平易に解説

今回は2007年の「環境工学研究論文集 第44巻」に投稿された「温度フェーズと中間オゾン処理を組合わせたプロセスによる余剰汚泥嫌気性消化の促進効果(https://www.jstage.jst.go.jp/article/proes1992/44/0/44_0_703/_pdf)」を紹介します。

著者は以下のとおりです。
東北大学大学院工学研究科土木工学専攻の小林拓朗さん、李玉友さん、原田秀樹さん
栗田工業株式会社開発本部の安井英斉さん
日本大学大学院総合科学研究科の野池達也さん

超ざっくりいうと

論文「温度フェーズと中間オゾン処理を組合わせたプロセスによる余剰汚泥嫌気性消化の促進効果」を超平易に解説

この論文を、超ざっくり解説すると「下水処理で出てくる汚泥を処理する技術の話」です。
汚泥処理の工程のなかに、オゾン処理を組合わせたら、1.36倍も効率化しました。

もう少し具体的に紹介すると

もう少し具体的に紹介すると

それでは、もう少し深く論文の中身に踏み込んでいきましょう。

汚泥を汚泥で処理する?

汚泥を汚泥で処理する?

この論文を理解するには、いくつか基礎知識を知っておく必要があります。
まず、次の2点を押さえておきましょう。

  • 「下水汚泥」は、「活性汚泥」という別の汚泥を使って処理する
  • そうすると「余剰汚泥」という、また別の汚泥が発生する

「毒を以て毒を制したところ、新たな毒が生まれた」みたいな仕組みですが、こういうことです。
活性汚泥とは、人工的に育成した微生物を含む汚泥で、下水汚泥を浄化する能力を持ちます。
しかし、この活性汚泥法は、新たに余剰汚泥というやっかいなものを生んでしまうので、余剰汚泥を処理する必要があります。

この論文は、余剰汚泥の処理技術の話をしているので、内容を理解するには、余剰汚泥の基礎知識も必要になります。

嫌気性消化の欠点をオゾンが補う

嫌気性消化の欠点をオゾンが補う

この論文を理解するために、次の2項目も押さえておいてください。

  • 余剰汚泥を処理するには「嫌気性消化」という方法を用いる
  • 嫌気性消化には、高い温度(55度)で処理する高温消化と、低めの温度(35度)で処理する中温消化があるが、それぞれ一長一短あって「困って」いる

「嫌気性消化」のうち「嫌気性」とは「酸素に接触させない」という意味です。「消化」とは、汚れの元である「有機物」を「分解する」という意味です。

余剰汚泥の処理には嫌気性消化という方法が有効なのですが、技術者たちは、処理効率が高まらないことに「困って」いました。
そこで著者たちは、「困りごと」をオゾンで解決しようと考えました。

結論:オゾン処理を加えたら処理効率が1.36倍になった

結論:オゾン処理を加えたら処理効率が1.36倍になった

この論文の結論は、次のとおりです。

嫌気性消化の処理工程の途中に、オゾン処理を加えたら、処理効率が1.36倍になった。

これまでの、余剰汚泥の嫌気性消化の処理工程は、次のようになっています。

高温消化→中温消化
これを「TMプロセス」といいます。

1.36倍になった、新しい処理工程は次のとおりです。

高温消化→オゾン処理→中温消化
これを「TOMプロセス」といいます。

「高温消化→中温消化」も画期的な装置である

「高温消化→中温消化」も画期的な装置である

TOMプロセス(「高温消化→オゾン処理→中温消化」)は新しい技術ですが、TMプロセス(「高温消化→中温消化」)もかなり、画期的な装置でした。

TMプロセスの前は、中温消化しかしていませんでした。しかし中温消化では、余剰汚泥を40%しか分解できませんでした。
そこで、分解能力を高めた高温消化が開発されました。ところが高温消化は、運転が安定せず、水質が悪化する問題もありました。
その結果、高温消化で余剰汚泥を処理して、次に中温消化で処理するというTMプロセスが誕生しました。

専門用語を使って、高温消化と中温消化を説明すると、こうなります。

  • 高温消化は「VSS分解」が得意
  • 中温消化は「残留溶解性COD成分の分解」が得意

TMプロセスは、2つの処理方法の欠点を、互いに打ち消すことができました。

なぜオゾンで処理効率が1.36倍になったのか

なぜオゾンで処理効率が1.36倍になったのか

TMプロセス(「高温消化→中温消化」)も画期的な装置でしたが、著者たちは、さらに処理効率を高めたいと考えました。
オゾンで余剰汚泥を処理すると、TMプロセスでも分解できなかった成分を分解できます。このことは、著者たちも知っていました。

しかし、オゾンをつくるにはコストがかかるので、闇雲にオゾンを投入することはできません。そこで著者たちは、どのタイミングでオゾン処理をすれば、最少のオゾン量で最高の処理効率になるか、を考えました。

その結果、高温消化と中温消化の間にオゾン処理を入れるTOMプロセス(「高温消化→オゾン処理→中温消化」)が誕生しました。

チェック項目は4つ

チェック項目は4つ

論文では、TMプロセス(「高温消化→中温消化」)とTOMプロセス(「高温消化→オゾン処理→中温消化」)の性能を、次の4項目で比較しました。

A:汚れ(有機物)の分解率(数値が大きいほどよい)
B:メタンガスをつくる量(数値が大きいほどよい)
C:凝集性(添加剤の投入量)(数値が小さいほどよい)
D:水質(数値が小さいほどよい)

結果は以下のとおりでした。

TMプロセスとTOMプロセスの結果

この結果に関する著者たちの見解は、次のとおりです。
「A:汚れ(有機物)の分解率」「B:メタンガス」「C:凝集性」の3項目は、TOMプロセスのほうが優れていました。
「D:水質」については、ほとんど差がありませんでした。

著者たちは、汚れの分解率のうち「CODCr」の値に注目しています。
TOMプロセスは63.6でした。
一方、上記の表には入っていないのですが、「中温消化だけ」で処理したときのCODCrの数値は46.8でした。
したがって、著者たちは「TOMプロセスの処理能力は、中温消化の1.36倍になった」と結論づけました。計算式は以下のとおりです。
63.6÷46.8=1.3589…

表のA、B、C、Dの4項目の意味を、もう少し詳しく解説しておきます。

「A:汚れの分解率」は、「CODCr、VSS、炭水化物、タンパク質、脂質」の5種類で比較しました。いずれの数値も大きくなるほど「汚れをよく分解できている」ことを示します。

余剰汚泥の処理では「B:メタンガス」が発生します。メタンガスは貴重なエネルギーなので、回収して使います。そのため、メタンガスが多くつくられるほど、よい処理といえます。

「C:凝集性」とは、有機物を凝縮させることをいいます。有機物を凝集させると、水と分離しやすくなり、浄化しやすくなります。
凝集性を高めるには、添加物を投入する必要があります。添加物の投入量が少なくて済む方法ほど、優れた処理方法といえます。

「D:水質」は「CODo、NH4+-N、PO43-P、TVFA」の4つの成分を比べました。この4つの成分を小さくできたほうが、よい処理方法といえます。

なぜ「中間オゾン処理」が効果を高めたのか

なぜ「中間オゾン処理」が効果を高めたのか

ではなぜ、高温消化と中温消化の間にオゾン処理(中間オゾン処理)を加えると、処理能力が高まったのでしょうか。

TMプロセスでは、余剰汚泥が「高温消化」から「中温消化」へと流れていきますが、このとき「嫌気性微生物」が増殖していることがわかりました。
つまり、せっかく高温消化で余剰汚泥を浄化したのに、中温消化に移動する間に、新たな汚れが生まれてしまっていたのです。

そこで、「新たな汚れ=嫌気性微生物」を中間オゾン処理によって叩いてから、余剰汚泥を中温消化に送ることにしたわけです。
これが、中間オゾン処理を加えたことによって、処理能力が高まった理由になります。

まとめ~あくなきコスト追求

まとめ~あくなきコスト追求

下水処理は「何かを生む」作業ではありません。そのため、コストをかけにくい作業といえます。
しかし、下水処理をしないと人々の日常生活にも産業にも著しい被害をもたらすでしょう。そのため、効果を出さなければならない作業でもあります。

オゾンを使えば、下水の汚泥処理の効果が高まることはわかっていました。しかし著者たちは、コストを極力抑える方法を探すことにしました。しかも「効果は落とさないで」という厳しい条件をつけて。
そうして誕生したのが「中間オゾン処理」を加えたTOMプロセスです。あくなきコスト追求が生んだ、画期的な下水汚泥処理技術といえるでしょう。

この論文は以下のURLで全文を読むことができます。

論文名温度フェーズと中間オゾン処理を組合わせたプロセスによる余剰汚泥嫌気性消化の促進効果
著者東北大学大学院工学研究科土木工学専攻 小林拓朗・李玉友・原田秀樹
栗田工業株式会社開発本部 安井英斉
日本大学大学院総合科学研究科 野池達也
リンクhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/proes1992/44/0/44_0_703/_pdf

Copyright © OZONE PLUS. All Rights Reserved.

上へ