藤田医科大学(愛知県豊明市)は2020年8月、ウイルス学の村田貴之教授たちの研究チームが、低濃度のオゾン・ガスでも新型コロナウイルスを殺菌できることを実験で明らかにした、と発表しました(*1)。
世界初の快挙です。
高濃度のオゾンでのコロナを殺菌できることは、すでに実証されていました。
オゾンは自然界にも存在するため、低濃度では人体に害はありませんが、高濃度になると健康被害が出ます。
それでこれまでは、オゾンによるコロナ殺菌は、人を退避させた密閉空間で行わなければなりませんでした。
今後は、低濃度でもコロナ殺菌が確認されたため、健康問題を気にせずオゾンが使えるようになります。藤田医科大学も早速、大学病院の外来の待合室や病室で、低濃度オゾン発生器を使うことにしました。
人がいてもコロナ殺菌ができれば、感染予防は格段に効率化できます。
ウィズコロナ社会が求める画期的な技術といえます。
*1:https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv0000007394.html
オゾンは酸素と似た気体(ガス)
オゾンは「O3」と表記する気体(ガス)で、酸素(O2)と同様に酸素原子(O)だけで構成されます。
オゾンは酸素に電気的な刺激を与えると発生します。オゾンには強力な殺菌効果があり、さまざまなウイルス対策に使われています。
オゾンは、高濃度状態では人の健康を害しますが、時間の経過とともに酸素に戻り、自然に無害化します。
詳しくは「オゾンの特徴」をご覧下さい。
高濃度オゾンのコロナ殺菌はすでに証明済み
今回の発表に先立つ2020年5月に、奈良県立医科大学が、1.0~6.0ppmの高濃度オゾンを使ってコロナ殺菌に成功しました(*2)。
「ppm」は100万分の1という意味なのでかなり薄い印象を持つかもしれませんが、次の数値と比べると1.0~6.0ppmがかなりの高濃度であることがわかります(*3)。
- 森林でのオゾン濃度:0.05~0.1ppm
- 日差しが強い海岸のオゾン濃度:0.03~0.06ppm
- オゾンを使った作業場の許容濃度(日本産業衛生学会の規定):0.1ppm以下
- 上空25kmのオゾン層のオゾン濃度:10~20ppm
森林や海岸でオゾンが問題になることはないので、0.1ppm以下のオゾンなら、人が触れても(曝露しても)問題ないことがわかります。作業場の許容量も0.1ppm以下になっています。
このような数値をみても、1.0~6.0ppmのオゾンで部屋を殺菌しようとすれば、人を出してドアや窓を閉じて行わなければならないことがわかります。
それでも奈良県立医科大学がオゾンでコロナを殺菌できることを証明したことは画期的なことでした。
*2:http://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r2nendo/documents/press_2.pdf
*3:https://www.sat.co.jp/knowledge/ozone/
低濃度でのコロナ殺菌の実験内容
出典:メ〜テレ(名古屋テレビ)
オゾン濃度が高いと、オゾン発生器を操作する側も細心の注意を払わなければなりません。
藤田医科大学の村田教授たちは、0.05~0.1ppmという低濃度のオゾンでも、コロナを不活化させることを証明しました(*1)。自然界と同じくらいの濃度なら、人や動物がいても安心してオゾン発生器を使うことができます。
村田教授たちの実験方法を紹介します。
実験方法
村田教授たちの実験方法を紹介します。
まず、新型コロナウイルスを付着させたステンレスの板を、アクリル製の密閉容器のなかにセットします。さらに密閉容器のなかに、オゾン発生器、オゾン濃度測定装置、温度計、湿度計を入れました。
・コロナを付着させたステンレス板
・オゾン発生器
・オゾン濃度測定装置
・温度計
・湿度計
この状態で一定時間、オゾン濃度を0.05ppmに保ちました。
次に、まったく同じ状態でオゾン濃度を0.1ppmにして試しました。
さらに、湿度を変えて同じ実験を行いました。
一定時間が過ぎたあと、ステンレス板のコロナを細胞に接触させ、感染するかどうか確認しました。
細胞に感染しなければ、コロナが殺菌されたことになります。
研究結果:人がいても「低濃度オゾン+高湿度」で殺菌できる
実験結果は次のとおりです。
A:オゾン濃度0.1ppm、湿度80%、10時間経過:コロナの感染性が4.6%まで減少
B:オゾン濃度0.05ppm、湿度80%、10時間経過:コロナの感染性が5.7%まで減少
C:オゾン濃度0.1ppm、湿度55%、10時間経過:コロナの感染性が32%まで減少
AとBから、オゾン濃度が0.1ppmから0.05ppmに半分に薄まっても、80%の湿度ならコロナの感染性は「しっかり減少している」ことがわかります。
AとCから、オゾン濃度が同じでも、湿度が80%から55%に低下してしまうと、コロナの感染性は「弱まりにくい」ことがわかります。
オゾンを使ったコロナ殺菌では、高湿度を保つことも重要であることがわかります。
以上の実験から、村田教授は次のような結論を導き出しました。
- 人体に無害とされる低濃度のオゾンでも、コロナの感染性を抑制できる
- 湿度の高い状態の方が、オゾンのコロナ殺菌効果は高まる
- 人がいる部屋でも、低濃度オゾンを使えば、コロナの伝播を低減できる可能性を示した、世界初の研究となった
すぐに外来で使ったところに価値がある
出典:https://www.fujita-hu.ac.jp/
今回の研究結果の価値は、低濃度オゾンの力を実証しただけではありません。
藤田医科大学は9月から、大学病院の外来待合室や病室に低濃度オゾン発生器を置き、コロナ殺菌に着手します。
一般的に研究機関の実験というものは、例え良好な結果が出てもすぐに実用化できません。しかし藤田医科大学は今回、実験レベルで問題ないという結論が出たらすぐに実用化しました。
医学研究に詳しくない人は「実験の結果、安全性が示されました」と言われても、なかなか安心できるものではありません。低濃度オゾンなら人が暴露しても健康に問題はないとはわかっていても、どうしても抵抗感が生まれてしまいます。
しかし、大学病院の待合室で使われれば、人々は「本当に安心できそうだ」と思うことができます。
2つの研究結果が相乗効果を生む
奈良県立医科大学が、1.0~6.0ppmのオゾンでコロナ殺菌を証明したのが2020年5月です。
藤田医科大学が、0.05または0.1ppmのオゾンでコロナ殺菌を証明したのが8月です。
1.0~6.0ppmでは、部屋をコロナ殺菌するには無人にして密閉にしなければならず、現場は手間がかかります。
しかし0.05または0.1ppmなら、人がいる場所でオゾン発生器を稼働させることができるので、現場に負担がかかりません。
奈良県立医科大学がオゾンによるコロナ殺菌の道を拓き、藤田医科大学がオゾンのコロナ殺菌の利便性を高めました。
次の章で低濃度オゾンを使うシチュエーションを考えてみますが、大学の研究結果がこれほど早く、これほどダイレクトに、人々の生活によい効果をもたらすことは珍しいことです。
低濃度オゾンは「この現場」で使える
人に害を及ぼさない低濃度オゾンが使えるようになると、コロナ殺菌を必要としている現場は大きな恩恵を受けるはずです。
さまざまな現場での利用シーンを考えてみました。
●高い院内感染予防効果が期待できる
オゾンは時間が経つと酸素に戻ってしまい、殺菌効果がなくなってしまいます。それは高濃度オゾンであっても同じです。
そのため、せっかく部屋を高濃度オゾンで殺菌し終えても、そのあとに誰かがコロナを持ち込んでしまえば汚染されてしまいます。
低濃度オゾンなら人がいるところで使えるので、侵入してきたコロナをその都度殺すことができます。
病院が低濃度オゾン発生器を使えば、高い院内感染予防効果が期待できます。
●家庭で気軽に使えるようになる
高濃度オゾン発生器の場合、「人がいないところで使うこと」「部屋を密閉させること」「酸素に戻るまで部屋に入れない」という制約があるので、一般家庭で使うことに二の足を踏む人もいたでしょう。
しかし、「人がいても大丈夫」「健康被害の心配がない」ことが証明された低濃度オゾン発生器なら、空気清浄機並みに気軽に使うことができます。
●コンビニなど24時間営業の店で使える
コンビニなどの24時間営業の店は、無人にして密閉し、数時間オゾンを充満させるという方法を採用しにくかったのですが、人がいるところでもオゾンを発生させることができるのであれば、いつでもコロナ殺菌ができます。
●企業は事務所の閉鎖時間を減らすことができる
企業でコロナ感染者が出た場合、特殊な処理をする清掃業者を呼んで、事務所を除染しなければなりません。
清掃業者は、オゾンを部屋に充満させる「燻蒸」を行ってからアルコールなどで机や椅子や棚などを拭いていくので、企業は事務所を一時的に閉鎖しなければなりません。
低濃度オゾンなら、オゾンを発生させながらアルコールでの拭き取り作業ができるかもしれません。除染が効率化できれば、企業は事務所の閉鎖時間を短くすることができます。
●目に見えることの安心感
オゾンは気体なので、そこにあるかどうかわかりません。そのため、部屋をオゾン殺菌しても、第三者は、本当に実行したのかどうか確認できません。
しかし、例えば病院の外来の待合室にオゾン発生器を置いて動かせば、患者さんたちは、まさに今オゾンが殺菌していることを確認できます。
殺菌の様子が目に見えることは、コロナを心配する人々を安心させます。
まとめ~人類の勝利の一歩
新型コロナウイルスと共存するウィズコロナ社会は続いても、2020年のように人が大量に死亡する状況はいつか解消されるはずです(*4)。それは、人類が英知を結集して、ワクチンや治療薬を開発するからです。
そして「低濃度オゾン+高湿度」という新たなコロナ殺菌法も、人類の勝利の1つ考えることができます。
これまでも業務用のオゾン発生器は、公衆衛生に多大な貢献をしてきましたが、人がいないところでしか使えませんでした。低濃度オゾンにはそのデメリットがありません。
家庭用や事務所用などの低濃度オゾン発生器は、今後間違いなく普及していくでしょう。
*4:https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/04/24/06847/