今回は「食卓にのぼるオゾン」をテーマに飲食物の製造に使われるオゾンを紹介します。「天然水で作られた○○、総天然水仕込み」と銘打ったペットボトルの飲み物をコンビニやスーパーで見かけることがあるかと思います。精水の過程のどこでオゾンやUV処理が使われているのかを紹介します。又、殺すほうではなく活かすオゾンとして養殖産業を取り上げます。
地下水を汲み上げて天然水由来という清涼飲料水が作られるまで
原料水に工場の地下水を汲み上げてオゾン処理「純水仕立て」にする工程とは
天然水を謳う美味しい水や清涼飲料水を製造している工場は、国内では565工場、そのうち、地下水(井戸水)を汲み上げて使用しているのは74工場ほどです。
この中には本当は未処理でも飲用できる水源地に建っている工場もあるのですが、ほとんどの場合何らかの殺菌方法を採用しているのが普通です。
出典:http://www.dowa-ecoj.jp/catalog/2010/20101001.html
こちらは大規模施工一例です。用途としては工業用水向けです。飲用用水の地下水は、汲み上げてから濾過過程でオゾン処理水槽を通すやり方が主流です。(下図参照)
低圧UV装置は地下水浄化に使われます。
出典書籍:「初歩から学ぶ紫外線殺菌」浦上逸男著より
例えば、採水から空気に触れずにボトリングすることを謳っているナチュラルミネラルウォーターは非加熱であったりするのですが、UVやオゾン殺菌を施してある場合があります。前に紹介した清水寺「音羽の滝」のオゾン処理設備と同じように取水場所の設備に応じて直接オゾン発生ランプ、発生オゾン水添加設備等をビルドインするやり方です。
出典:宮島醤油 ウェブサイト https://miyajima-f.co.jp/product/package/pet
例外で醤油などのボトリングは、静菌剤としてアルコール添加することをかねてアルコール消毒の場合もあります。
最近は安価のRO膜処理などを併用して浄水していたりしますが、こちらはミネラル分まで濾されてしまうので、後で再度ミネラル類を添加して硬度を調整しています。最近流行りのウォーターサーバーの宅配水などはこの処理が多いですね。
出典:pivot原ノ町店(筆者撮影)
充填ペットボトル洗浄になぜオゾンがよいのかといえば
内容物を詰める前に新品のペットボトルも大抵は洗浄されてからレーンに出てくるのが普通です。なぜオゾンがよいのかと言えばペットボトルの蓋や形って凸凹がありますよね。でもオゾン水ならばまんべんなく噴霧することが可能です。オゾンガス+オゾン水を別々に発生させて吹き付けるミスト濃度を調整しています。
オゾンは気体なので薬品残留がないことが無味無臭の水商品にはうってつけなのです。もちろん生産ラインコンベア上の洗浄などにもオゾン殺菌は使用されています。
機材的には、ISO取得工場などは水の品質を外部マーケットへアピールできることもあって、有害な酸化窒素類を発生させずに大量のオゾンを作り出す装置を導入することが多いようです。(ノンフロン技術等)
腸炎ビブリオなど海産物特有の殺菌に活躍する海辺のオゾンUV殺菌
漁港でのフロア洗浄など、海水やリサイクル水使用の際にオゾン処理水が使われているのですが、方式としては外照射式のインラインタイプを採用していることがほとんどです。
魚類独特な腸炎ビブリオやO157などの食中毒菌を水際で防ぐ為、水揚げ場や競り前の市場のフロアに撒かれる水はオゾン処理海水や人工海水となっています。ここでもインラインタイプの「空気に触れず完全殺菌」が功を奏している例です。
【例題:牡蠣養殖場の出荷前のオゾン無菌処理】
牡蠣は海水中の酸素やプランクトンを食べて生きていますから、海水を常に飲み込んで吐き出すことで生命を維持しています。しかし牡蠣には平気でも人間では死を観るような食中毒菌があります。加熱するわけにもいかず、従来は塩素を添加した無菌人工海水をつくって毒抜きを行っていました。
ですがO157などの強力耐性菌もありちょっと不安が残るのと、だからといって長く毒抜きすればその分(牡蠣は絶食中なのだから)味は落ちてしまうという悩みがありました。オゾン処理水の登場で、塩素も使わず、1日程オゾン処理海水に曝すだけで安心の食材として出荷できるのはとても画期的でした。
ところでオゾンは発生時「生臭い」と言われていますが何故生臭いものが生臭さを消臭できるのでしょうか?
医療に使われるオゾンの項目で「酸化療法」のお話をしましたね。あれが、過酸化水素+オゾンになるのですが、その効果は細胞のタンパクの膜を壊すとき、この二つが合わさると酸化スピードが速くて強力になるのです。
実はそれと同時に、消臭能力も強力になります。ということで
微生物の分解が早いので、臭う前に脱臭してしまいます。
発生時のオゾンの生臭さは化合物の化学変化から来ており、魚などの生臭さは微生物の活動や分解で出されるものですから似て非なるものなのです。
オゾンの消臭を難しく言い直しますと
「オゾンはねえ、高濃度では異臭味除去に優れていて、且つ臭素酸生成の抑制にも優れているから臭いしないんだよねー、これは凄いよね~」
となります。何気なくさりげなく、人前では涼しい顔でこれで攻めてください(推奨)。
殺菌だけではない、養殖貝の産卵誘発に使われているUVランプがあります
アワビやホタテなどの貝類の産卵誘発や魚類の雌化ができる驚きのオゾンの使い道
アワビやホタテの生殖能力をあげるやり方として昔からあるのは「干ばつ式」という、いわゆる貝を水から揚げて干しとくという極めて原始的な方法だったそうです。生命の危機を感じさせ子孫を残そうと貝がフルスロットで励むのですが、これだと死んでしまったり思うようにはならない結果だったりと安定供給に欠けるのが難点でした。
出典元:浜松フォトニクス https://www.hamamatsu.com/jp/ja/product/type/L11751-01/index.html
魚病や寄生虫の懸念を避けるため導入されたオゾン処理水槽で何故か産卵が多いことだったそうです。これは諸説あるのですが細胞の分画過程で何らかタンパク構成を変容させてしまうようです。
ちなみに魚類のオスにUV照射すると交配された魚卵は孵化すると全部メスになるのだそうです。これで卵を沢山とって養殖すれば収量も上がります。鮭やししゃもなどはメスの方が高価ですからね。
まとめ(発展考察に代えて)
ところで清流にしか生息しない淡水魚と言えば、イワナや鮎ですが、川魚の鮎の養殖場にオゾン照射するとやっぱり大きくなるのか?といわれればもりもり成長するかは謎らしいです。強いてあげれば餌の残りが腐りにくいこともあって水もきれいだし無駄なく食べてもらえるということで、コスト面が良さそうということでした。科学の偉い先生も見に行ってみたけれどこれに関しては「ようわからん」らしいです。
ちなみに海水と淡水両方で成長する土用の日に欠かせない「ウナギ」の養殖にもUV殺菌が用いられておりますが、やはり線量や餌の抗生物質が健康への懸念としてニュースで話題となったことがあります。確かに日本の天然産より肉厚でデカイ蒲焼きですが、台湾や中国からの輸入ウナギは稚魚そのものが違うヨーロッパウナギですのであれは個体そのものがデカイのです。決して有害放射能を浴び巨大化したのではありませんのであしからず。それではまた。
<参考文献>
「オゾン」jstage電学誌 1994年10号(巨大金魚の話)、「紫外線照射海水によるアワビの産卵誘発について」 浮 永久、「ウナギの養殖(静岡県)」自述、kbook「初歩の紫外線殺菌」浦上逸男