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論文「国産野菜の貯蔵、保存、陳列を目的としたオゾンの利用条件検討」を超平易に解説

オゾンに関する学術論文を超平易に解説します。
今回は「国産野菜の貯蔵、保存、陳列を目的としたオゾンの利用条件検討(https://www.alic.go.jp/content/000153659.pdf)」を紹介します。
著者は以下の2人です。
静岡県立大学(食品栄養科学部環境生命科学科)内藤博敬さん
宮崎大学(地域資源創成学部)戸敷浩介さん
この論文は2017年度野菜関係学術研究委託調査報告書に記載されました。

記事の最後にこの文献へリンクしていますので、是非ご覧下さい。

超ざっくりいうと

論文「国産野菜の貯蔵、保存、陳列を目的としたオゾンの利用条件検討」を超平易に解説

まずはこの論文を、超ざっくり解説します。
著者たちは、「野菜が長期間腐らなければ、安定供給が可能になる」と考えました。
腐るスピードが速いと、採った野菜をすぐに食べなければなりません。そうなると、予測しづらい消費量を予想しながら栽培、収穫しなければならず、供給が安定しません。

野菜が腐るのは、細菌に汚染されるからです。
そこで著者たちは、野菜が農家から消費者に届くまでの1)貯蔵、2)保存、3)陳列の3つの場面に注目し、それぞれで細菌を退治する方法を検討しました。
そこでオゾンの殺菌効果を調べる実験をすることにしました。

果たしてオゾンを使うことによって、野菜の貯蔵期間と保存期間と陳列期間は長期化したのでしょうか。

もう少し具体的に紹介すると

もう少し具体的に紹介すると

それでは、もう少し深く論文の中身に踏み込んでいきましょう。

結論は「オゾンで長期保存が可能になる」

結論は「オゾンで長期保存が可能になる」

先に結論を紹介すると、オゾン水とオゾンガスを使うことで、野菜の長期保存は可能になります。
野菜は、畑から消費者宅の間の流通過程において「環境に由来する細菌」と「人に由来する細菌」によって汚染されます。
これらの細菌はオゾン水で野菜を洗うことで落とすことができます。また、オゾンガスを野菜に吹きかけることによって、殺菌効果も得られます。

ただオゾン殺菌するときに、野菜を密閉容器に入れると「エチレンによる追熟が加速する」という悪影響が生じることがわかりました。

バナナの追熟

追熟とは、収穫したあとに植物が熟することをいいます。追熟は悪影響をもたらすだけではありません。例えばバナナは、若くて硬いうちに収穫して、その後一定期間貯蔵することで軟らかくなって食べごろになります。
しかし追熟が加速しすぎてしまうと、腐敗が早く到来してしまいます。
エチレンは野菜自身が発するガスで、追熟を進める効果があることがわかっています。

そこで著者たちは、オゾンによる野菜殺菌は開放状態で行えるようにしたほうがよく、それは今後の課題になるだろう、としています。

オゾンを検討することになった動機

オゾンを検討することになった動機

著者たちが野菜の保存期間を延長させるためにオゾンに注目したのは、化学薬品を極力使わないようにしたかったからです。
細菌は腐敗を進めるだけでなく、その途中で野菜の色を変えてしまいます。野菜が変色すると、消費者はそれだけで「食べたくない」「買いたくない」と感じます。変色も安定供給を妨げることになります。

そこで流通業界では野菜に付着した細菌を取り除くとき「ポストハーベスト」という手法を使っています。これは化学薬品による除菌・殺菌手法です。
しかしポストハーベストの場合、安全性が高い方法を確立できたとしても、「化学薬品」というだけで生産者にも消費者にも拒否感情が生まれます。

そこでオゾンが活躍できるわけです。オゾンは「強い酸化力」という殺菌能力を備えています。
オゾンは化学薬品ではなく、酸素を加工してつくるガスです。オゾンガスを水に溶かしたのがオゾン水です。
しかもオゾンは分解されやすく、殺菌が終わったら酸素になるので環境や人に対して無害化します。

オゾンの課題

オゾンは化学薬品と同じく殺菌作用を持ちながら、化学薬品のような「恐さ」がありません。しかしオゾンであっても完璧というわけではありません。
著者は、オゾンを使った野菜殺菌の不便さとして次の2項目を挙げています。

【オゾンは長期保存できない】
つくったらすぐに使わなければならない。または、使う直前に使わなければならない。

【高濃度のオゾンは人体に悪影響を及ぼす】
オゾンが無害になるのは分解されて酸素になったときであり、オゾンの状態のときに人体に触れると健康を害することがある。

オゾンを野菜に使うにはこれらの欠点をクリアしなければなりません。

これらの野菜で試してみた

これらの野菜で試してみた

今回の実験では、次の野菜でオゾン殺菌の効果を試してみました。

  • ゴーヤ(農家から譲り受け、静岡県産)
  • ミニトマト(農家から譲り受け、静岡県産)
  • ニンジン(農家から譲り受け、静岡県産)
  • ピーマン(市販、高知県産)
  • ナス(市販、高知県産)
  • キュウリ(市販、産地不明)

農家から譲り受けた野菜は、環境に存在する細菌に汚染されている可能性は高いのですが、人が持ち込む細菌に汚染されている可能性は低くなります。
市販の野菜は、環境由来の細菌にも、人由来の細菌にも汚染されている可能性が高くなります。
今回の実験では、これらの可能性についても確かめました。

流通過程で新たな細菌に汚染される

流通過程で新たな細菌に汚染される

野菜を水で洗った場合と、オゾン水で洗った場合で、それぞれどのような細菌が検出されるのか確認しました。
農家から譲り受けたゴーヤ、ミニトマト、ニンジンからは、土壌の細菌、穀物の細菌、動物の細菌などの環境由来の細菌が確認されました。
環境由来の細菌としては「Pseudomonas oryzihabitansグラム陰性桿菌」や「Pantoea eucalyptiグラム陰性桿菌」などがみつかりました。

市販のピーマン、ナス、キュウリからは、環境由来の細菌に加えて、人由来の細菌も確認されました。
人由来の細菌としては「Staphylococcus xylosusグラム陽性球菌」や「Kosakonia cowaniiグラム陰性桿菌」などがみつかりました。

このことから、農家が野菜を出荷したあとに、人由来の細菌に汚染されることがわかりました。例えばピーマンは、今回の実験では袋に梱包されていたものを使いました。袋詰めしたときに、人由来の細菌がピーマンに汚染されたと考えられます。
著者たちは、野菜に付着している細菌の種類と流通経路を調べれば、効果的な細菌対策を打ち出すことができるだろう、と述べています。

ゴーヤとニンジンでオゾン効果が高く出た

ゴーヤとニンジンでオゾン効果が高く出た

ゴーヤ、ミニトマト、ニンジン、ピーマン、ナスの5つの野菜で、1)洗浄しない、2)水洗い、3)オゾン水洗浄の殺菌効果を確認しました。
5つの野菜すべてで「洗浄しないより水洗いのほうが殺菌効果が高い」ことと「水洗いよりオゾン水洗いのほうが殺菌効果が高い」ことがわかりました。
特にオゾン効果が高かったのは、ゴーヤとニンジンでした。

ゴーヤに付着した細菌の数は次のようになりました。
1)洗浄しない:1グラム当たり10の5乗個
2)水洗い:1グラム当たり10の4乗個
3)オゾン水洗浄:1グラム当たり10の3乗個

ニンジンに付着した細菌の数は次のようになりました。
1)洗浄しない:1グラム当たり10の6乗個
2)水洗い:1グラム当たり10の5乗個
3)オゾン水洗浄:1グラム当たり10の3乗個

「洗浄しない→水洗い→オゾン水洗い」と進むにしたがって、文字通り「桁違い」に細菌の数が減っています。
一方、ミニトマト、ピーマン、ナスでは、これほど劇的には細菌数は減少しませんでした。
その原因について著者たちは、ゴーヤとニンジンの表面が、ミニトマト、ピーマン、ナスより凸凹しているから、と考えています。
オゾン水は、野菜表面の凹んだ部分に潜んだ細菌も殺菌できることがわかりました。

追熟スピードを速めてしまう場合と遅くする場合がある

追熟スピードを速めてしまう場合と遅くする場合がある

画像:https://www.alic.go.jp/content/000153659.pdf

追熟は野菜をおいしくして食べやすくしますが、追熟スピードが速くなりすぎると早く腐敗してしまいます。
そこで今回の実験では、オゾン水洗浄とオゾンガス洗浄により、追熟がどの程度変わるのか測定しました。
その結果、ゴーヤとピーマンでは、オゾンで殺菌すると追熟スピードが速まってしまうことがわかりました。

ただこれは「オゾンのせい」ではなく、ゴーヤとピーマンが「エチレンガスを出すから」と考えられます。エチレンガスは、野菜の追熟スピードを速めてしまいます。
オゾン殺菌は、野菜を密閉容器に詰めて行うので、濃度が高いエチレンガスにさらされることになります。
そこで著者たちは、野菜を密閉しないで、開放状態でオゾン殺菌する必要があると提唱しています。

一方、ニンジンは、オゾン殺菌によって追熟が遅れることがわかりました。
またミニトマトとナスは、オゾン殺菌しても追熟スピードは変化しませんでした。ただ、ミニトマトとナスをオゾン殺菌すると、野菜表面の光沢が増すことがわかりました。これは野菜の流通によってよいことといえます。

ニンジン、ミニトマト、ナスは、エチレンガスをあまり出しません。そのため、オゾン殺菌をするために密閉容器のなかに入れても、エチレンの悪影響を受けずに済んだわけです。
エチレンの悪影響受けなければ、オゾンによる殺菌という、よい影響だけを受けるので、追熟が遅くなったり野菜に光沢が生まれたりするわけです。

まとめ~細菌以外にも敵がいた

まとめ~細菌以外にも敵がいた

今回の実験は、野菜の長期保存とオゾン殺菌の関係について調べました。実験の結果、オゾンに環境由来の細菌と人由来の細菌の両方を殺す力があり、野菜の長期保存に寄与できることがわかりました。
これは大きな成果といえます。

しかし、エチレンを多く出す野菜の場合、オゾンガスを吹きかけたり、オゾン水に浸したりするだけで、長期保存が実現できるわけではないこともわかりました。
野菜は、それ自体が発するエチレンによって傷みます。オゾン効果を高めるには、野菜を密閉容器に入れて処理せざるを得ず、そうなるとエチレンの悪影響が大きくなってしまいます。
開放状態でのオゾン殺菌が必要ですが、それは「今後の課題」として残ってしまいました。

この論文は以下のURLで全文を読むことができます。

論文名国産野菜の貯蔵、保存、陳列を目的としたオゾンの利用条件検討
著者静岡県立大学 食品栄養科学部 環境生命科学科 内藤博敬
宮崎大学 地域資源創成学部 戸敷浩介
リンクhttps://www.alic.go.jp/content/000153659.pdf

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