今回は熊本県茶業研究所の宮崎裕子さん、水上浩之さん、行徳裕さん、郡司掛則昭さんが2011年の「熊本県農業研究センター研究報告 第18号」に投稿した「オゾンガスを利用した土壌消毒が土壌の化学性および作物の生育に及ぼす影響(https://www.pref.kumamoto.jp/common/UploadFileOutput.ashx?c_id=3&id=991&sub_id=1&flid=3&dan_id=1)」を紹介します。
超ざっくりいうと
まずはこの論文を、超ざっくり解説します。
農業に使う土は、消毒しなければなりません。これまで、臭化メチルという土壌消毒剤を使っていましたが、これが使えなくなったので、著者たちはオゾンガスで土壌消毒できないかと考えました。
実験の結果、オゾンガスでの土壌消毒は効果がありました。
オゾンガスで消毒した土でホウレンソウとトマトを栽培したところ、生育にも収量にも悪影響を及ぼさないことがわかったのです。
もう少し具体的に紹介すると
それでは、もう少し深く論文の中身に踏み込んでいきましょう。
結論を先に紹介
先に結論を紹介します。
今回の実験で、次のことがわかりました。
●オゾンガスによる土壌処理方法
濃度17,500㎎/Lのオゾンガスを、土に、1分間3リットルのスピードで15分間投与しました。
●殺菌効果
土のなかにいた病原微生物を殺菌できました。
また、土壌のpHが低下して、ECは上昇しました。ECは塩類濃度といい、カルシウムやマグネシウム、カリウムなどの濃度のことです。
pHの低下とECの上昇は、いずれも「農業用の土にとってよいこと」といえます。
●実験ではホウレンソウとトマトを栽培
土壌を殺菌できても、栽培する野菜に害悪が出ては土壌消毒剤としては失格となります。
そこで、オゾンガスで消毒した土でホウレンソウとトマトを栽培してみました。その結果、生育にも収量にも悪影響は出ませんでした。
以上のことから、著者たちは「有効な消毒技術であると推察できる」と結論づけました。
なぜ著者たちはオゾンにたどりついたのか
著者たちがオゾンガスを使った土壌消毒を実験した背景を紹介します。
著者たちが属する熊本県茶業研究所は、熊本県内の中山間地帯での茶の栽培を研究する施設です。
したがって著者たちの本業は茶の栽培なのですが、県立の研究施設ということもあり、今回は施設野菜の栽培で使う土について研究することになりました。
施設野菜とは、ビニールハウスやガラス温室などの施設でつくる野菜のことです。
ひとつのビニールハウスで、さまざまな種類の野菜や果物をつくることがあります。とても効率的な方法ですが、ある野菜に悪い影響を及ぼさない病原微生物が、別の果物に悪影響を及ぼすリスクが発生します。
そこで施設野菜をつくるときは、土壌をしっかり消毒する必要があります。
これまで土壌消毒剤として、臭気メチルという薬剤を使っていました。これは殺菌、殺虫効果があり、しかも処理が簡単で、さらに安価でした。
しかし臭気メチルは、オゾン層を破壊する物質として、2005年に全廃されることになりました。
臭気メチルの代わりの土壌消毒法として、クロルピクリンという薬剤や、太陽熱消毒などが試されましたが、臭気メチルほどの効果は出ませんでした。
そこで著者たちは、医療分野や食品業界で殺菌剤として使われているオゾンに着目したわけです。
農業におけるオゾン
この論文は2011年に発表されました、実験をしたのは2004年ごろです。そのころすでに、オゾンは農業に使われていました。
例えば、種子の殺菌や、水耕栽培に使う水耕液(栄養液)の殺菌にオゾンが使われていて、「残留農薬の心配がない」ことがわかっていました。
しかし、オゾンで土壌消毒した研究結果がなかったため、著者たちがそれに取り組んだわけです。
どのように土をオゾン消毒するのか
オゾンガスを使った土壌消毒方法を紹介します。
直径12cmのポリポットに土を700ml入れます。ポリポットとは、苗を育てるための簡易的な鉢のような器です。
オゾンガスを噴出するノズルを土に差し込みます。差し込む深さは3cmです。
ノズルから、濃度17,500mg/Lのオゾンガスを1分間3Lの速さで15分噴出させました。
試した土とその結果
施設野菜の栽培では、さまざまな土が使われます。著者たちは、次のような土に対して、オゾン消毒を試しました。
- 厚層多腐植質黒ボク土
- 灰色低地土(細粒灰色低地土)
- 牛ふん堆肥を18年間連用した土壌
- 堆肥施用歴のない土壌
いずれの土も、オゾン消毒した結果、pHが低下して、ECが上昇するという、よい結果がえられました。特に、無機態窒素、可給態リン酸、アンモニア態窒素が上昇したことについて著者たちは「土壌養分が増加した」と高く評価しています。
なぜ、オゾン消毒が土の養分を増やしたのでしょうか。
著者たちは「微生物がオゾンガスで死滅したから」と推測しています。
ホウレンソウとトマトはどのように成長したか
今回の実験のハイライトである、ホウレンソウとトマトの栽培についてみていきましょう。
ホウレンソウは2004年7月12日に、オゾンガス消毒した土と、消毒していない土の両方に種をまき、同年8月23日に収穫しました。
その結果、次のようになりました。
- 発芽率:差はみられず
- 初期の成育:オゾンガス消毒土でやや劣った
- 後半の生育:オゾンガス消毒土のほうが多く収穫できた
トマトは、苗を2005年12月5日に、オゾンガス消毒した土と、消毒していない土の両方に植え、2006年2~3月に収穫しました。
結果は次のとおりです。
- 草丈、葉色:差はみられず
- 開花:オゾンガス消毒土のほうが早かった
- 収穫量:オゾンガス消毒土のほうが多かった
ホウレンソウもトマトも、オゾンガス消毒土のほうが、よい成績でした。
論文は「オゾンガスによる土壌消毒法は(中略)葉菜類や果菜類栽培においても何ら問題なく適用できる新しい土壌消毒法として実用化が可能な技術である」と結ばれています。
まとめ~オゾンは土もキレイにする
オゾンは土もキレイにすることがわかりました。しかも、有害な病原微生物を殺すだけでなく、土の養分も増やしています。
これまで以上に国内野菜・果物が安心・安全に食べられるようになりそうです。
この論文は以下のURLで全文を読むことができます。
論文名 | オゾンガスを利用した土壌消毒が土壌の化学性および作物の生育に及ぼす影響 |
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著者 | 宮崎裕子・水上浩之・行徳裕・郡司掛則昭 |
リンク | https://www.pref.kumamoto.jp/common/UploadFileOutput.ashx?c_id=3&id=991&sub_id=1&flid=3&dan_id=1 |