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「コロナ禍で研究が遅れる」さまざまな機関が悲鳴を上げている

新型コロナウイルス感染症が恐ろしいのは、3つの性質があるからです。
そのうちの2つはこれです。
・人を殺す毒性
・世界同時感染で地球上に安全な場所がない

このウイルスが人類にとって最悪の敵であるといわれるのは、この2つの性質があるからです。
そして3つ目の性質はこちらです。
・ほとんどすべてのものを停滞させる

感染拡大によって、ほとんどすべてのものが停滞してしまいます。
「毒性」と「世界同時感染」が今日や明日の脅威だとすると、「ほとんどすべての停滞」は将来の脅威になります。
停滞したことによる被害は、あとから出てくるからです。経済が停滞して大企業は赤字に陥りましたが、倒産したわけではありません(*1、2、3)。しかしこのダメージは、企業の将来を決める経営戦略や設備投資などに影響を与えるでしょう。

そして、大学や研究所などの研究機関も、「ほとんどすべての停滞」に巻き込まれて甚大な被害を受けている領域の1つです。
コロナ禍によって研究者が身動き取れなくなったり、研究しづらくなったりしています。
人類最大の敵と闘う今こそ研究が必要なのに、それができないでいます。人類の未来を担う研究者が、コロナによってどれほど侵害されているのかみていきます。

*1:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62086150Q0A730C2000000/
*2:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62497220R10C20A8I00000/
*3:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62491500Q0A810C2MM8000/

研究現場の被害状況

「コロナ禍で研究が遅れる」さまざまな機関が悲鳴を上げている

国も、コロナ禍による研究への被害を強く警戒しています。
文部科学省は、科学技術が直接的な影響と社会経済の変化による間接的な影響の両方を受けていると認識しています(*4)。

そこで同省は2020年6月、大学、公的機関、企業などに所属する研究者に「新型コロナウイルス感染症等による日本の科学技術への影響と科学者・技術者の貢献に関するアンケート調査」を実施し、1,412人から回答を得ました。
その結果は、研究者たちの危機感を浮き彫りにしています。

*4:https://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/st-experts-network-covid-impact-flash0710.pdf

コロナ禍は研究の在り方すら変えてしまう

アンケートで「コロナ禍による社会経済などの変化が、日本の科学技術全体にどのような影響を与え、どのような変化が起こると思うか」と尋ねました。
最も多い回答と2番目に多かった回答は次のとおりです。

  • 1位(54%)日本の科学技術が直接的・間接的に影響を受ける
  • 2位(39%)研究開発活動(手法、プロセス、成果の公表方法等)の在り方が変化する

研究者たちは、研究の在り方すら変えてしまうほど、コロナ禍による影響は深刻であると認識しています。

「学びの場が激減」「調査できない」「研究が減速」大学教育に影響も

アンケートではさらに、研究現場に実際に起きている影響や被害や変化について、自由回答で尋ねました。1割以上の人たちが同じ回答をしたものを紹介します。

  • 学会での交流など、学びの場が激減した
  • 情報交換の量が減少した
  • オンライン学会では、他の研究者との偶発的な交流が期待できない
  • 新たな研究テーマや研究方法を発掘する機会が減った
  • 実験の中断や停止により、研究計画の立て直しや研究の停滞が生じた
  • 実験動物、微生物、培養細胞、植物などの維持や管理の負担が増えた
  • 現地調査や試料採取が中止または延期になった
  • 外部組織との共同研究が停滞した
  • 学生の卒業研究のテーマ変更や、実験や調査の遅延が発生した
  • 研究室を支えていた学生の実験が滞り、研究全体が減速した
  • 講義のオンライン化により準備に手間がかかり、研究に割り当てる時間が減った

オンライン学会については、場所と移動の制約がなくなることから、メリットを指摘する声もありました。
しかし、研究者にとってリアル学会(通常の学会)は他の研究者と交流する貴重な場であり、そこで研究テーマが得られることもあります。それが失われることは、大きな痛手となっているようです。

そして、研究の停滞、動物や細菌などの維持管理の負担増、現地調査の中止、共同研究の停滞、実験の中断といった実害も発生しています。

大学の教授たちは、自身の研究だけでなく、学生を教育しなければなりませんが、そこにも支障が出ています。新型コロナは未来の研究者にも影響を与えています。

このような事態は、研究者たちの生の声を聞かないと見えてこないので、そういった意味でこのアンケートはとても貴重なデータを提供しているといえます。

理化学研究所の驚くべき見解

理化学研究所の驚くべき見解

出典:https://www.riken.jp/

同じウイルス被害でも、インフルエンザウイルスやノロウイルスが大流行しても、研究機関にここまでの被害を与えることはありません。
なぜ、コロナ禍によって研究がこれほど停滞するのでしょうか。
それは、新型コロナウイルスが、それだけ強力だからです。

新型コロナウイルスが強力であることは周知の事実ですが、それでも研究機関の研究に支障を与えていることは、特筆に値します。
なぜなら、大学や研究機関がウイルスをコントロールできなければ、もう誰もウイルスを制御できないからです。

小学校やテーマパーク、介護施設などがウイルスをコントロールできないことは、仕方ありません。
しかし一般の人々は、研究機関ならウイルスを制御できると期待しています。ところが実際はそうなっていないのです。

理化学研究所(本部・埼玉県和光市、以下、理研)は、日本最高峰の研究機関の1つですが、やはりコロナ被害を受けています。
そして、理研が示した「研究活動再開のための基本3原則」は、一般の人には衝撃的な内容になっています。

無菌状態の創出はあり得ない

理研はコロナ禍を受け、全事業所のすべての職員や研究者を一時、在宅勤務にしました。そして政府が2020年5月14日に緊急事態宣言を一部地域で解除したことから、段階的に研究活動を再開させました。 理研は研究を再開させるときに、研究者たちに、次の「基本3原則」を守るよう提示しました(*5)。
  • 無菌状態の創出はあり得ないこと
  • 陰性証明は不可能なこと
  • 自らの身は自らが守ることを基本とすること
理化学研究所の公式サイトに掲載された「段階的な活動の再開について」の「基本3原則」。

出典:理化学研究所-段階的な活動の再開について

出典:理化学研究所-段階的な活動の再開について

無菌状態とは、新型コロナウイルスを完全にシャットアウトして、安全に実験や調査を行う環境のことです。理研は、そのような環境をつくることはできないと断言しています。
そして、新型コロナウイルスの性質から、「この人は陰性である(感染していない)」と証明することはできない、とも言っています。これは言外に「例えPCR検査で陰性と出ても」というニュアンスが含まれています。偽陰性(本当は陽性なのに陰性と出てしまうこと)をゼロにすることはできない、と言っているわけです。

「無菌状態の創出はあり得ない」と「陰性証明は不可能」を1文にまとめると、このようになります。

例え理研の研究室内であっても、新型コロナウイルスが侵入することは十分起こり得るし、同僚の研究者が陽性である(感染している)場合も十分にあり得る。

だからこそ理研は、研究者に、研究再開は自己責任(自らの身は自らが守る)で行うよう呼び掛けているのです。

*5:https://www.riken.jp/covid-19/

それでもコロナに立ち向かう

理研の理事長にはかつて、ノーベル化学賞を受賞した野依良治氏が就任していました(*6)。計算速度世界最速のスーパーコンピュータ「富岳」を富士通と一緒につくったのも理研です(*7)。
その理研ですら、研究者や職員たちに「自己責任で研究を続けよ」と言うしかありません。
これが、2020年夏現在の日本の科学の限界なのかもしれません。
しかし理研は、コロナに関する研究も行っていて、そのテーマは次のとおりです(*8)。

  • スパコン富岳を使った治療薬の研究
  • 10~30分で新型コロナウイルスを検出できる検査技術の開発
  • 生活と社会を持続させるための研究
  • 日本で流行している新型コロナウイルスのゲノム解析

理研は、人類最強の敵に果敢に立ち向かっています。

*6:https://www.riken.jp/about/history/
*7:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60664390T20C20A6MM8000/
*8:https://www.riken.jp/covid-19-rd/index.html

東大が実施した研究活動制限とは

東大が実施した研究活動制限とは

コロナ被害を受けている、もう1つの国内最高峰の研究機関として、東京大学の状況を紹介します。
東大は2020年4月8日から活動制限レベルを3にしました(*9)。これはとても強い警戒です。

*9:http://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/research_activities/

東大も新型コロナの前では普通の学校

東大は活動制限レベルを次のように設定しています(*10)。

<新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京大学の活動制限指針(一部省略)>

レベル総合研究活動授業
0通常
0.5一部行動制限感染拡大に最大限の配慮をして、研究活動を行うことができます。感染拡大に最大限の配慮をして、対面授業、演習・実習を制限しつつ、オンライン講義を中心に授業を行います。
1制限、小研究活動は続行できますが、感染拡大に最大限の配慮をしつつ、学生・研究員・研究スタッフ(研究室関係者)は現場での滞在時間を減らし、可能な場合は自宅で作業することを検討する必要があります。オンライン講義のみ
2制限、中現在進行中の実験・研究を継続するために必要最小限の研究室関係者のみの立ち入りが許可されます。立ち入る研究室関係者は現場での滞在時間を減らすとともに、それ以外の研究室関係者は自宅での作業となります。オンライン講義のみ
3制限、大以下の研究スタッフの研究室への立ち入りが許可されます。
1)中止することにより大きな研究の損失を被ることになる、長期間にわたって継続している実験を遂行中の研究スタッフ
2)進行中の実験を終了あるいは中断する業務に関わる研究スタッフ
3)生物の世話、液体窒素の補充、冷凍庫修理など研究材料の維持、あるいはサーバーの維持のために一時的に入室する研究スタッフ
オンライン講義のみ
4構内活動の原則禁止大学機能の最低限の維持のために、専攻⻑など組織代表者の許可の下で、生物の世話、液体窒素の補充、冷凍庫修理、サーバー保持などを目的に、一時的に入室する研究スタッフのみの立ち入りが可能です。オンライン講義のみ
引用:https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400137691.pdf

<新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京大学の活動制限指針(一部省略)>

新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京大学の活動制限指針

引用:https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400137691.pdf

東大が採用したレベル3は、事実上、研究の中止状態です。
5月25日に東京都に対する緊急事態宣言が解除されたことから、東大はレベルを徐々に引き下げ、7月13日からレベル0.5になり、それが8月以降も続いています。
レベル0.5であれば、感染拡大に配慮することで研究を続けることができます。授業はオンライン講義が中心になりますが、一部、対面授業も解禁されます。

東大の対応で注目したいのは、研究者たちのメンタルへの配慮です。
東大・保健センターは、教授や准教授ら指導的立場にある人たちに対し、自分の研究室のメンバーに「研究室での実験を継続しなければならない」という精神的プレッシャーを与えないよう、呼びかけています(*9)。

東大の研究活動の制限は、理研の制限より、強い印象があります。それは東大が大学だからでしょう。
東大には、少し前まで高校生だった人たちも多数所属していますし、大学内の大半は、ウイルスとは縁遠い文系の学生や先生たちです。
ウイルスをコントロールするスキルは、一部の研究室を除くと普通の学校と同レベルと考えてよいでしょう。そのため、普通の学校がコロナを強く警戒しているように、東大も同レベルの警戒を維持しているわけです。

*10:https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400137691.pdf

研究の遅延は製薬メーカーでも

研究の遅延は製薬メーカーでも

新型コロナ対策では治療薬とワクチンの開発が鍵を握っているので、製薬メーカーの活躍が欠かせませんが、ここでも研究被害が起きています。
業界紙の薬事日報は2020年4月、製薬メーカーに対して行なったアンケート調査の結果を発表しました(*11)。
コロナ禍が原因で新薬開発などの臨床試験が遅れたり中止したりした製薬メーカーは、32社中10社(31%)に達しました。
新薬の治験は病院で行ないますが、新型コロナ対応に追われている病院に協力する余裕がなくなっているからです。しばらくは、新たな治験を実施しないことを決めた製薬メーカーもありました。

これこそまさに、新型コロナウイルスの「世界同時感染」の威力といえます。仮に製薬メーカーが無傷でも、新薬の開発で協力してもらわなければならない病院が傷を負ってしまうと、研究が頓挫してしまいます。
新薬の開発には「年単位」や「10年単位」の時間がかかります。それがさらに遅れることになるので、これもコロナによる未来の被害といえるでしょう。

*11:https://www.yakuji.co.jp/entry78480.html

研究者たちの対策

研究者たちの対策

人類の未来を背負っている研究者たちは、ウィズコロナ下でどのように研究を継続していったらよいのでしょうか。

実験をリモート化して、大学以外での作業を増やす

東京都市大学が2020年5月に策定した「新型コロナウイルス感染防止のための研究室(実験室)利用ガイドライン」が参考になりそうです(*12)。

このガイドラインは「健康管理」「研究室や共用部分」「研究指導やゼミ、遠隔コミュニケーションなど」「実験室、実験装置の管理」「実験スケジュール管理」「実験室に入る前に」「実験中の注意」「実験が終了したら」「実験内容に応じた対応」「遠隔操作の工夫」の10項目について、細かくやることを示しています。

ガイドラインには「3密を避ける」「ドアノブやテーブルを消毒する」「1~2時間ごとに5~10分換気する」といった、一般的なコロナ対策も載っていますが、特に研究機関に求められる取り組みを紹介します。

  • 研究室での作業の必要性を確認し、自宅でも可能な作業は自宅で行う。
  • 必要以上に大学に残らず、実験が済んだあとは速やかに帰宅する。
  • 実験結果の整理、解析などは自宅でできるようにしておく。
  • Zoomなどのウェブ会議ソフトの活用を進めて、教員学生間や学生同士の遠隔コミュニケーションを活性化するように努める。
  • 新型コロナの流行状況に応じて研究計画を柔軟に調整する。
  • 実験の延期などで研究を思うように進められない学生が不安を抱かないように、教員は学生のメンタルケアを心がける。
  • 可能な範囲で実験装置のリモート運転化を進める。試料の取り付けなど、必要最低限の時間のみ実験室に滞在することが理想。
  • 実験室では、空気清浄機による殺菌を徹底する。
  • 実験装置は、誰がいつ利用したかを必ず記録に残す。利用ログノートを活用する。感染者が出た際に、どの装置に触れたかを特定するために重要。
  • 人を対象とする実験では、被験者と接触しないようにグローブや遮蔽着を着用する。

このように並べると、研究機関がすべきことがたくさんあることがわかります。

*12:https://www.arl.tcu.ac.jp/cms/data/img/img2005261425510.pdf

実験室の空間の殺菌を考える

実験室の空間の殺菌を考える

東京都市大学のガイドラインで示された対策のうち、「実験室では、空気清浄機による殺菌を徹底する」に注目してみます。
殺菌機能がある空気清浄機である「オゾン発生器」について考えてみます。

新型コロナを10,000分の1にした

オゾン(O3)は酸素(O2)と同じように、酸素原子(O)だけで構成された気体です。オゾンの酸化力はフッ素に次いで2番目に強く、これが強い殺菌効果を生みます(*13)。

オゾンガスを発生させるオゾン発生器は、コロナ禍以前から、病院や食料施設、実験室など、清潔を保たなければならない場所で使われていました。
そのため、オゾンは新型コロナウイルスも殺菌するのではないか、という期待が高まっていましたが、それが最近証明されました。

奈良県立医科大などが2020年5月に、オゾンは新型コロナウイルスを不活化する、という研究結果を公表しました(*14)。
培養した新型コロナウイルス細胞株を機密ボックスに入れてオゾンガスを充満させたところ、最大10,000分の1まで不活化させることができました。

*13:https://www.spp.co.jp/category/ozone/knowledge/index.html
*14:http://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r2nendo/documents/houdousiryou.pdf

室内の新型コロナ殺菌では実績がある

奈良県立医科大の実験の前から、オゾンは新型コロナ殺菌に使われていました。
コロナの集団感染が発生し、2020年2月に横浜港に寄港したダイヤモンド・プリンセス号の除染にも、オゾンが活躍しました(*15)。
その他、事務所などの空間の新型コロナ殺菌を請負っている業者もオゾンを使っています(*16)。
研究室や実験室も、オゾン殺菌することで研究者たちの安全性は高まるはずです。

*15:https://www.tokusyuseisoutai.jp/service/covid19.html
*16:https://www.mind-company.jp/body/covid-19

オゾンの物質への影響

研究者たちが気になるのは、オゾンの物質への影響ではないでしょうか。
オゾン発生器は、酸素からオゾンをつくりますが、そのオゾンは、放置しておけば自然に酸素に戻ります。
しかし、実験室をオゾン殺菌すると、試料や実験材料がオゾンに触れる可能性があります。

国立環境研究所によると、高濃度のオゾンが植物に触れると、葉が枯れることがあります(*17)。植物がある研究室をオゾン殺菌するときは、植物を一時的に移動させておいたほうがよいかもしれません。
また、オゾンは、鉄やゴムなどの物質を劣化させる一方で、ステンレスやガラス、ポリ塩化ビニルなどへの影響は小さい、という報告もあります(*18)。

実験室でオゾン発生器を使う場合は、オゾンの濃度や使用場所について検討する必要があるかもしれません。

*17:https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/67/04-09.html
*18:http://www.wako-system.co.jp/004.html

まとめ~見えにくいだけに心配

まとめ~見えにくいだけに心

コロナ禍に関するニュースでは、感染者数や経済への影響が注目されていますが、研究の停滞はあまり話題になりません。
それは、世の中の人が今日や明日のことで手一杯になっているからでしょう。未来をつくるための研究を気にかけている余裕がないのです。
そのため、研究室の被害は見えにくくなっています。

しかし研究現場をのぞくと、新型コロナによって確実に侵害されていることがわかります。研究の停滞は未来の停滞を意味するので、ここにも手厚い対策が必要です。
産学官が協力して、研究者が安心して働ける環境が整備されることを期待したいです。

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