次亜塩素酸水の殺菌効果に関する論文を、超平易に解説します。
次亜塩素酸はさまざまな場面でオゾンと比較されることが多いことから、今回は次亜塩素酸に関する学術文献をご紹介します。
今回紹介するのは、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会が2007年に作成した「次亜塩素酸水の成分規格改正に関する添加物部会報告書」です。
なお、この論文を作成した添加物部会のメンバーは、この記事の最後に掲載しています。
記事の最後にこの文献へリンクしていますので、是非ご覧下さい。
超ざっくりいうと
まずはこの論文を、超ざっくり解説します。
次亜塩素酸水は食品用の殺菌液ですが、厚生労働省は「次亜塩素酸水は、最終食品の完成前に除去しなければならない」と定めています。
なぜなら、次亜塩素酸水は人体に悪い影響を及ぼす危険があるからです。
厚生労働省はかつて、食品殺菌用の次亜塩素酸水の使用基準と成分規格を定めましたが、内容が古くなってしまいました。
そこで同省は、薬や食の専門家で構成する添加物部会に、現代(2007年現在の現代)にマッチした使用基準と成分規格を検討するよう依頼したのです。
この論文は、さまざまな実験を行い「新しい食品殺菌用の次亜塩素酸水」を定義したわけです。
もう少し具体的に紹介すると
それでは論文の内容をもう少し具体的に紹介します。
結論:新使用基準と新成分規格
結論を先に紹介します。
食品殺菌用の次亜塩素酸水としてはこれまで「強酸性次亜塩素酸水」と「微酸性次亜塩素酸水」の2種類がありました。
それを今回、「弱酸性次亜塩素酸水」と「微酸性次亜塩素酸水」に変えることにしました。
強酸性が消えて弱酸性になりました。微酸性は名称は同じですが、内容が変わりました。
「新・弱酸性次亜塩素酸水」と「新・微酸性次亜塩素酸水」は、殺菌効果を高めながら、食の安全性に懸念がないことがわかりました。
新旧の次亜塩素酸水がどのように変わったのかまとめてみます。
<旧>
●強酸性次亜塩素酸水
有効塩素20~60mg/kg
0.2%以下の塩化ナトリウム水溶液でつくる
●微酸性次亜塩素酸水
有効塩素10~30mg/kg
2~6%塩酸でつくる
<新>
●微酸性次亜塩素酸水(いわゆる新・微酸性次亜塩素酸水)
有効塩素50~80mg/kg
3%以下の塩酸及び5%以下の塩化ナトリウムでつくる
●弱酸性次亜塩素酸水(いわゆる新・弱酸性次亜塩素酸水)
有効塩素10~60mg/kg
0.2%以下の塩化ナトリウム水溶液でつくる
それでは次に、新・微酸性次亜塩素酸水と、新・弱酸性次亜塩素酸水の殺菌能力の実力をみていきましょう。
新・微酸性次亜塩素酸水の殺菌能力の実力
有芽胞菌は、旧・微酸性次亜塩素酸水では殺せませんでしたが、新・微酸性次亜塩素酸水では殺せるようになりました。
有芽胞菌とは、大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA、サルモネラ菌、緑膿菌、レンサ球菌、枯草菌、カンジダ、黒コウジカビのことです。
枯草菌は殺すのに3分かかりましたが、その他の菌は1分で死滅しました。
続いて、カットレタス、カットキャベツ、カイワレダイコン、鳥ささみ肉を、新・微酸性次亜塩素酸水で処理してみました。その結果、これらの食品に付着していた菌は減少していました。
さらにこれらの食品で、新・微酸性次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの効果を比較しましたが、新・微酸性次亜塩素酸水は3分の1の塩素量で殺菌することができました。
使用する塩素が少ないほうが食の安全を確実にします。
さらに、ホウレンソウを新・微酸性次亜塩素酸水で処理して、その後、ホウレンソウにどれだけ塩素が残っているか調べたところ、まったく検出されませんでした。
食品の栄養成分に及ぼす影響も調べました。
カット野菜を新・微酸性次亜塩素酸水で処理しましたが、βカロチンもビタミンC分解されませんでした。悪影響は及ぼしていませんでした。
新・弱酸性次亜塩素酸水の殺菌能力の実力
新・弱酸性次亜塩素酸水の殺菌効果は、次のとおりでした。
- 緑膿菌、サルモネラ、腸炎ビブリオ、エンテロバクター、フラボバクテリウム:30秒で殺菌できた
- セレウス、サーキュランス、メガリウム:5分かけても殺菌できなかった
8種類の菌で試してみて、5勝3敗でした。
食品への殺菌効果では、キャベツ、リンゴ、タマゴ、アジ、鶏肉に対して、弱酸性次亜塩素酸水で処理したところ、30秒で90~99%殺菌できました。
弱酸性次亜塩素酸水は食品に残留しないこともわかりました。
ただカットキャベツを弱酸性次亜塩素酸水で5分間処理したところ、劣化することがわかりました。
まとめ~健康と食の安全はこう守る
この論文からは、なるべく少ない量の塩素で食品を殺菌しようという、研究者たちの意気込みが伝わってきます。健康を害する菌を殺しつつも、食品の風味を壊さない殺菌液をつくろうとしています。
厚生労働省と専門家は、このように人の健康と食の安全を守っているわけです。
この報告書の全文は、以下のURLで読むことができます。
また、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会のメンバーは以下のとおりですが、肩書は2007年当時のものです。
資料名 | 次亜塩素酸水の成分規格改正に関する部会報告書 |
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著者 | 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会 |
メンバー | 石田裕美・女子栄養大学教授 井手速雄・東邦大学薬学部教授 井部明広・東京都健康安全研究センター 北田善三・畿央大学健康科学部教授 佐藤恭子・国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部第一室長 棚元憲一・国立医薬品食品衛生研究所食品添加物部長 長尾美奈子・共立薬科大学客員教授 堀江正一・埼玉県衛生研究所水・食品担当部長 米谷民雄・国立医薬品食品衛生研究所食品部長 山内明子・日本生活協同組合連合会組織推進本部本部長 山川隆・東京大学大学院農学生命科学研究科准教授 山添康・東北大学大学院薬学研究科教授 吉池信男・独立行政法人国立健康・栄養研究所研究企画評価主幹 |
リンク | https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0320-7h.pdf https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002wy32-att/2r9852000002wybg.pdf |