専門家が作成したオゾンに関する文書「日本感染症学会の院内感染対策講習会Q&A(http://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/pdf/qa_all.pdf)」を超平易に解説します。
今回は日本感染症学会の「院内感染対策講習会Q&A」を紹介します。このQ&Aは2006年に作成されました。
記事の最後にこの文献へリンクしていますので、是非ご覧下さい。
超ざっくりいうと
出典:監修 社団法人日本感染症学会「院内感染対策講習会」
まずはこの文書を、超ざっくり解説します。
そもそも院内感染とは、病院内で入院患者たちが新たな病原菌やウイルスに感染してしまうことです。重大な院内感染では患者が死亡することもあります。
患者は病気を治すために病院に来ているのに、そこで別の病気にかかることは、あってはならないことです。
そこで感染症の治療や研究に携わる医師たちでつくる社団法人日本感染症学会が、厚生労働省の委託を受け、院内感染を予防するマニュアル「院内感染対策講習会Q&A」を作成しました。
このQ&Aは、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師向けなので、専門性が高く難しい専門用語が並んでいます。しかもA4の紙にびっしり文字が詰まって127ページもあります。
そこでこの記事では、オゾンに関する部分のみをピックアップして、極力専門用語を使わないで紹介します。
もう少し具体的に紹介すると
それでは論文の内容をもう少し具体的に紹介します。
手洗いは4ppmの濃度のオゾン水がよい
「医療従事者たちの手洗いと医療器具の洗浄について、効果があるオゾン水の濃度を教えてください」というQに対し、次のような回答をしています。
まず手洗いに適したオゾン水濃度は以下のとおりです。
- 医療従事者が手洗いに4ppmの濃度のオゾン水を使っている医療機関がある
- その滅菌率は80~93%と上々の成績である
- ただ、手術をする医師たちがオゾン水を使ったところ、菌が残っていたことがあった
- オゾン水は水温やpHの影響を受けやすい。つまり水温やpHの違いによって効果が落ちることがある
ppmは100万分の1という意味なので、4ppmのオゾン水とは、水全体に占めるオゾンの割合が0.0004%しかない「極薄」オゾン水です。
この回答からは、それだけの量のオゾンでも高い殺菌効果があることがわかります。
しかし、より厳格な殺菌が求められる手術前の医師の手洗いでは、菌が残っていて完全にリスクを除去できるわけではないこともわかりました。
pHは、液体が酸性なのかアルカリ性なのかを表す尺度です。
オゾン水の殺菌効果は水温とpHの違いによって効果が落ちることがあるので、医療機関はオゾン水を適切に管理する必要があることがわかります。
医療器具の殺菌に適したオゾン水濃度は以下のとおりです。
- 医療器具の殺菌は加熱が一般的
- オゾン水で医療器具を殺菌する可否は判断しかねる
- 20ppmのオゾン水で鉗子(かんし)という器具を殺菌したところ、菌が残ったことがある
- 50ppmにまでオゾンの濃度を高めたオゾン水なら、菌は残らないかもしれない
- オゾン水と洗浄剤と消毒薬の3つを使うと効果的、との報告もある
一般の人がこの回答を読むと「まどろっこしい」と感じるかもしれません。結局、オゾン水は、医療器具の殺菌に向いているのでしょうか、そうではないのでしょうか。特に「オゾン水で医療器具を殺菌する可否は判断しかねる」のくだりは気になります。オゾン水で洗わないほうがいいのでしょうか。
なぜこのような「まどろっこしい」表現になっているのかというと、このQ&Aは入院患者の命に関わる院内感染に関わることだからです。どうしてもこのような慎重な言い回しになってしまうのです。
この内容を要約すると、こうなるでしょう。
- 加熱できる医療器具は加熱殺菌したほうがよい
- 加熱に向かない医療器具をオゾン水で洗浄するのであれば、濃度が高いオゾン水を使い、洗浄剤と消毒剤も使ったほうがより安全である
【番外編】次亜塩素酸ナトリウムは3種のウイルスを退治する
出典:Amazon.co.jp
この「院内感染対策講習会Q&A」には85個のQがありますが、オゾンに関するものは上記のものだけでした。
そこで消毒において「オゾンのライバル」である次亜塩素酸ナトリウムについてみておきましょう。
「ノロウイルスに有効な消毒薬にはどのようなものがありますか」というQに対し、次亜塩素酸ナトリウムが有効であると答えています。
次亜塩素酸ナトリウムはさらに、ロタウイルスやネコカリシウイルスの消毒にも有効であるとしています。
エタノールも消毒液として知られていますが、ノロウイルスの消毒に関するデータはなく、ネコカリシウイルスとロタウイルスに対しては「効果が得られないことがある」でした。
オゾンの効果については触れていません。
まとめ~現在はもっと使われています
2019年現在では多くの医療施設や介護施設等で利用されています
このQ&Aには、心臓血管外科の手術後の感染や、針刺し事故による感染、検査室での感染、インフルエンザウイルス感染、人工呼吸器の感染など、計85個の感染に対する対策が紹介されていますが、「オゾン水による対策」はわずか1件でした。
ただ、このQ&Aは2006年に作成されたものです。この記事は2019年9月に執筆していますが、2006年から13年経過した現在では、オゾン水で院内を殺菌する病院やクリニックはもう珍しくありません。
日本感染症学会の「院内感染対策講習会Q&A」は以下のURLで全文を読むことができます。
資料名 | 院内感染対策講習会 Q&A |
---|---|
監修 | 社団法人日本感染症学会 |
リンク | http://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/pdf/qa_all.pdf |